最近こんなニュースを見た。『アナログレコードの売上が、1986年以来初めてCDの売り上げを上回った。』
たしかに僕も友達と話しているなかでレコードの話題があがったり、実際にレコードショップに立ち寄ってみたことはある。
でも、レコードの魅力ってはたしてどこにあるんだろう。いつでもどこでも、サブスクリプションサービスの台頭もあり簡単に音楽が聴ける今。
それなのにレコードの人気はどんどんと上がっている。なんだかレコードには、僕たちの知らない魅力がまだまだあるような気がするんだ。
レコードの魅力とはいったいどんなところにあるのか、そして、あえてレコードで曲を聴くならどんな曲がいいか。
そう考えた僕は、以前から気になっていたお店がある下北沢にやってきた。
vol.1 Record Station@下北沢
今回お話を伺ったのは、レコードショップ『Record Station』(レコード ステーション)を経営されている伊藤さん。
下北沢駅から徒歩5分の場所にあるこちらのお店は、若い世代からレコード熟練者まで、多くのお客さんでいつも賑わっている。
初のレコードに衝撃を受けた高校時代
--本日はよろしくお願いします! さっそくですが、伊藤さんとレコードの出会いについて教えてください。
「最初の出会いは高校時代です。当時仲が良かった友人がバンドをやっていて、自宅に遊びに行った際に彼らがレコードで音楽を聴いていたんです。
そのときは音が良いっていうのは正直あまり分からなかったんですけど、初めて触れたこともあって、単純に “カッコいい” という印象でしたね。」
--なるほど。CDとは違う魅力を感じたんですね。
「そうですね。CDと比べたときに、あの大きなレコードの面から音が出ていることにとても衝撃を受けたことを覚えています。」
--音楽好きの方は周りに多かったんでしょうか?
「多かったです。当時はバンドブームだったことも大きくて。周りにはバンドをやっていた子が多かったですね。若者がレコードで音楽を聴く流れもありました。」
--伊藤さんご自身も、当時からたくさんの楽曲を聴いていたんですか?
「かなり聴いていた方だと思います。新しい音楽に出会いたいという想いは強かったですね。
ただ、最初から洋楽をたくさん聴いていたわけではなくて、素直に自分の好きなアーティストの曲をよく聴いていました。」
--当時好きだったアーティストは誰でしょう?
「『Sing Like Talking』というバンドのボーカルの佐藤竹善(サトウ チクゼン)さんが好きで、当時からよく聴いていましたね。
バンド自体も洋楽に通じるテイストで好きなんですけど、ご自身もコンサートの際に洋楽をカバーしていました。
それがカッコよくて、コンサート終了後に貼り出されたトラックリストをメモしては、その音源をひたすらレコードで探す、なんてことをしていましたね。」
Record Stationが誕生するまで
--レコードショップを始めようと思ったきっかけを教えてください。
「最初は単純に憧れでした。僕がよく遊びに行っていたレコードショップの店員さんがDJだったんですけど、僕からしたらなんでも知っているという印象で。
あたりまえですが自分も最初はレコードにまったく詳しくないので、分からないことも多くて。
だけど、『こんな曲が聴きたい』と伝えると、その店員さんは気分にぴったりとハマるものを紹介してくれたんですよね。
毎回の発見を通して、自分の音楽の世界がどんどん広がっていったことを覚えています。自分もこんな人になりたいと強く憧れを抱きました。」
--伊藤さんにとって、音楽の師匠というイメージでしょうか?
「そうですね。自分自身DJを始めたり、多様なジャンルのレコードを聴いていくうちに勝手に知識がついてきたのもあって、より一層この人に近づきたいという想いが強くなりました。」
--高校時代にご友人の家でレコードを聴いたときから、ずっと想いを持ち続けているんですね。
「やっぱりとても印象に残っていました。大学時代の友人がマイアミに留学していたのですが、彼に会いに行くことをきっかけとして、現地で買いつけにトライしてみたんです。」
--それは思い切った挑戦…!
「僕にとってはみんなが就職活動をするのと同じ感覚でした。大学4年間のうちにいろいろなことにトライしてみたいなと思っていたんです。
買いつけが大学3年生ぐらいの頃だったと思うんですけど、やってみると自分なりに少し手ごたえを感じて。
継続していくうちに、ビジネスにできるかもと思うようになりました。」
--やはり、レコードショップでもお店によって出す色は異なるのでしょうか?
ジャンルが違えば、値段のつけ方も違います。レコードショップによって曲の推し方はさまざまですし、特色がいろいろとあります。
買取専門のお店や、海外から買いつけてきたレコードのみを売っているお店など。他にも新譜の商品のみを取り扱うお店など、それこそ多種多様です。
僕も色んなお店に足を運んで、たくさんのレコードを見てきました。」
--となると、Record Stationさんのお店の特徴はどこにあるんでしょうか?
正直、今はテーマを定めていません。お客さんの需要に対して、すべて提供したいという気持ちでやっています。
昔は1つのジャンルにこだわることがカッコいいと考えてたときもあったんですけど、今はそういう時代でもないのかなと。
レコード屋をやっていて、お客さんが何も買わずに帰っていく姿を見ると、何も提供できなかったなと思います。
今はなにか1枚でも発見してもらえる、そんなお店にできたらいいなと思って運営していますね。」
--なるほど。Record Stationさんは、ずっとレコードを聴いてきた人にとっても、これからレコードを聴き始める人にとっても、双方に対してベストなお店作りを意識されている、ということでしょうか?
「そう感じてもらえるととても嬉しいです。
昔は横浜でお店を運営していたんですけど、下北沢に店舗を持つようになって、コアな音楽ファンだけでなく、若い世代にもレコードの魅力を提供できるお店になりたいと考えるようになりました。
年齢や性別、国籍に関わらず、多くの人にレコードが持つ楽しさ、魅力といったものを伝えられたら嬉しいです。」
それでは、レコードの魅力に迫ってみよう
--レコードの魅力についてお聞きします。それこそたくさんあると思います。伊藤さんご自身としては、どのような点だとお考えですか?
「やっぱり、“音質” だと思います。音に関しては実際に聴いていただいて、CDやポータブルプレーヤーと比べると分かりやすいんですけど、まったく違いますね。」
--そのなかでも、スピーカーやプレーヤーによっても音が大きく変わってきますよね?
「大きく変わります。ただ、聴きはじめの方に高いスピーカーを用意していただくのはハードルが高いと思うので、最初はポータブルのモノで問題ないと思います。
僕も最初は、1万円弱程度で売っているものを使っていました。」
--1万円であれば比較的手が出しやすそうです。
「ほんとに、きっかけやスタートはなんでもいいと思います。僕もきっかけは音の良し悪しではなく、ビジュアルの魅力が大きくて。
友達とレコードを見に行って、カッコいいビジュアルのジャケットを探したり、実際に試聴して遊んでみたり。
そんな楽しみ方がとても面白いと思います。」
--音楽を聴くという行為の前に、買い物体験としての楽しさもありそうですよね。
「レコードは、ある意味古着の感覚に似ていると思います。古着屋さんも、一期一会の出会いが多いですよね。
買うものを決めていたわけじゃないけど、フラっと寄った店で意外な発見があったり。
古着を買ったら、家に帰るときのワクワク感や、着るときの合わせ方も考えると思うんです。
レコードも一緒で。オーディオのことを考えたり、部屋のどこに飾るかを考えてみたり。
自分が聴くシチュエーションや、部屋の雰囲気から音楽を選ぶ、なんて楽しみ方もおすすめですね。」
--全然知らないアーティストでも、ジャケットがカッコいいという理由だけでレコードを買うのって、正直ありなんですかね?
「ありだと思います! お店に来てくれるお客さんのなかには、それこそプレーヤーを持っていない方もいらっしゃいますよ。」
--ミーハー心? みたいなものが意外と大事だったりするのかもしれないです。
「そうですね。きっかけ自体は人それぞれなので、周りの目は気にせず、自分が良いと思えばまずは安いものでいいので買ってみてください。
そして、レコードが持つ魅力をちょっとでも感じてもらえれば嬉しく思います。」
--レコードを買うとき、何を買えばいいか迷うこともあると思います。探すときのコツはありますか?
「コツはたくさんあるんですけど、自分が気に入ったジャケットがあれば、それと似たデザインのレコードを視聴してみるのもいいですね。
あとは、年代やレーベルを見てみたり、ジャケットに書かれているプロデューサーの名前や、フィーチャリングで参加しているゲストアーティストを見てみること。
『このアーティストが参加している作品は間違いない!』みたいなことが、徐々に徐々に分かってきたりしますよ(笑)。」
--その域までいくと途端に楽しくなりそう! そういう発見もあるんですね。
「このレーベルの配給はハズレがないとか、聴いているうちにどんどんヒントが見えてくるんです。
あとは、知っている曲をカバーしているアーティストを視聴してみるのもきっかけとして良いと思います。
声や演奏が変わると、曲自体の雰囲気も変わってくるので。知ってる曲だから聴きやすいし、比較しやすいんですよね。」
--今はサブスクリプションの台頭で簡単に曲が聴ける時代だと思います。伊藤さんのお考えのなかで、そうした音楽体験と、レコードで音楽を聴くことの棲み分けはなにかありますか?
「サブスクリプションの音楽アプリは、現代に必須のモノだと思います。
ただ、家のなかでどれだけ自分らしい時間、リラックスした時間を過ごせるかということを考えたとき、レコードは1つ重要なアイテムになりえるのかなと。
あとはアプリで音楽を聴く場合、便利な反面、どうしても流し聴きになってしまうことが多いと思います。
レコードだと、比較的大きなモノを袋から出して、プレーヤーに乗せ、針を落とし、A面が終わればB面に変えて…。
こういう少しの手間がかかるものだからこそ、音楽に集中する時間を自然と作ることができるのかなと、そんな風に感じています。
昔ながらの良さで音楽を聴くことで、1つのカルチャーに触れること。その体験は、今の時代にすごく新しい体験として記憶に残ると思いますね。」
伊藤さんおすすめのレコードを紹介
レコードの魅力を聞いたところで、“あえてレコードで聴きたい” 楽曲を、伊藤さんご自身におすすめしてもらった。
1. Bobby Caldwell – Bobby Caldwell
「1978年リリースの、ボビー・コールドウェルのファーストアルバム。AOR(アダルト オリエンテッド ロック)の名盤です。
現代のシティポップのような雰囲気もあり、聴きやすい音楽が特徴的。奥行のあるメロウなサウンドが、耳に心地よいですよ。」
2. Roberta Flack & Donny Hathaway – Where Is the Love
「1972年リリースのアルバム。ソウル界で有名な2人のデュエット作品。温かみのある音楽で、曲が他のアーティストにカバーされることも多いです。
ボビー・コールドウェルが夜聴きたい音楽だとしたら、こちらは朝に聴きたいイメージ。」
3. Queen – Jazz
「1978年リリースの、クイーン7作目のスタジオアルバム。おすすめは<In Only Seven Days>という楽曲。
リラックスできる曲で、ロック以外のジャンルが好きな人でも聴きやすいですよ。他にも有名なあの曲が収録されてたり…。
ジャケットもカッコいいので、部屋に飾りたくなるアルバムです。」
4. 中本マリ – LADY IN LOVE
「1981年リリースのアルバム。ジャズであり、ソウルであり、そして聴き心地がとても良い。まさにレコードで聴きたい音楽です。
これまでジャズを聴いていなかった人の入門編としてもおすすめ。」
以上、4つのアルバムをご紹介。
レコードに囲まれて音楽の話をしていたら、なんだか僕もレコードが欲しくなってきた…。
せっかくレコードショップに来たんだし、自分も新しい音楽に出会わないともったいないと思い、2枚のレコードをゲット。
いつもと違うちょっと特別な音楽を
レコードショップって、なんだかバーのようなイメージがある。
大手のCDショップが居酒屋だとすれば、なんだか少し入るのに勇気がいって、憧れがある感じ。
それでも一歩足を踏み入れると、そこには今まで自分が知らなかった世界が広がっていて。
少しでもレコードに興味がある君。ぜひ、Record Stationに遊びに行ってほしい。
きっと、伊藤さんに導かれて、今求めている音楽に出会えると思う。
伊藤さん、このたびはありがとうございました!
今回訪れた場所はこちら
■Record Station
下北沢駅から徒歩5分。オーナーである伊藤さんの “すべてのお客さんの要望に応えるお店でありたい” という想いから、店内には国内外問わず、ジャンルや年代に縛られない多種多様なアーティストのレコードが並ぶ。こだわりの内装や、商品、そして伊藤さんの人柄が、音楽を愛するすべての人にとってとても心地の良い場所を創り出している。 住所:東京都世田谷区北沢3-30-1 下北沢かどやビル2F |
記事の創り手について
■ツネミ ケンゾウ – 取材・執筆
チトセメンバーの中ではめずらしい関西出身のケンゾーです。“気になることにはなんでもトライ” をモットーに、日々自分の世界を広げています。みんなが大好きなものから、まだ知られていないオモロイことまで、ユニークなテーマを中心に発信していきます。 Instagram:@love_good226 |
■コバヤシ ヒロト – 撮影
ファッションや音楽、カルチャーはもちろん好きですが、1番好きなのは “人が作ったモノ”。モノに込められた想いやストーリーを、写真を通してみなさんに届けていきたいです。 Instagram:@kobayashiotona |
■シミズ シュン – 編集
チトセの代表と編集長、カメラマンを務めています。“僕らが楽しく生きるために” をテーマに、親しい友人から話を聞いているような、そんな等身大のメディアを目指して。「楽しいから楽しむのではない。楽しむから、楽しいのだ。」という言葉を大切にして、日々を生きています。 Instagram:@shun_booooy |
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