【オンガクシツ vol.2】酒場テンセイ@西荻窪

僕らが好きな空間はさまざまあるけれけど、そこに間違いなくあるのは “良い音楽” だ。

決して音楽を前面に出すお店でなかったとしても、そこには空間を創り出す人のセンスや、こだわりが滲み出ているはず。

どこかにひと捻りのある音選びをし、居心地の良いお店を営むオーナーさん。

彼らに対して、音楽を通したお店のあり方というものを聞いてみたい。

音楽と空間の “質” にフォーカスしたシリーズ、『オンガクシツ』が始まるよ。

vol.2 酒場 テンセイ @西荻窪

チトセのキーワードにもある、僕らの友達。改めて、センスの良い友達としたいことってたくさんある。行きつけの店に連れていってほしいし、仕事を一緒にしても楽しいし、旅行にも行きたいし。

ただ、1つの究極というか、センスが良い友だちとやりたいことのすべてが集約されるのは “家に遊びに行くこと”。これに尽きると思うんだ。

センスがある人は、何から何までセンスがある。部屋が汚くたって、1ミリも気を遣ってこないくらい仲良しだって、無意識レベルでセンスが浴びられる。

大抵の場合、カッコつけずに聴いている音楽も妙に洒落てるし、余りもので作る手抜きパスタがやけに美味しいし、Amazonで買ったというダル着だってサマになる。

で、今回はまさにそんな、隙だらけでもサマになるセンスのある友だちのウチみたいな、通いたくなるお店の話。

ひたすらに雑多! なんでもアリ

吉祥寺の隣、西荻窪。かつては文豪が居を構え、今でも古本屋やアンティークショップ、気の利いたビストロや雑貨屋も立ち並ぶこの街。

都心から少し距離がありながらも、どことなく個々人のセンスに対して敏感だ。そんな街のそれほど大きくない駅前商店街の一角に、ひっそりと佇む木造空間。そこが今回の主役『酒場 テンセイ』だ。

「雑多さがテンセイの良さだと思っていて、メニューも和洋中にあまり偏らず、美味しいと思ったものを加えてます。このメニュー表も毎日作ってますから。あ、その日美味しい食材でも変わりますね」

店長の小海さん談。たしかに手書きのメニューには、あまり聞き馴染みのないメニューが並んでいる。海鮮納豆ばくだん、羊の山椒麻婆春雨、しらすと大葉のチーズオムレツ…。

料理のジャンルもカテゴライズ不要かつ不能なものがチラホラ。

これがいかにも、友だちの家でいただく気の利いたつまみ、って感じで良いな。カウンターには、これから美味しい料理に姿を変えるであろう新鮮な野菜たちがこちらを見つめている。

メニューにも現れているけど、店内もよくよく見たらなかなかの “なんでもアリ” 感。往年の記憶にも定かでない調理器具みたいな見た目のファミコン、映画やアニメ、唐突にサッカーのものまで揃えたビデオ、ジャンルに括られないレコード。

一見、何屋さんだかわからない。ただ、そのどれもが思わず会話の種になりそうな、ニヤリと笑いそうな、“良い感じ” のモノばかり。

なんでもアリだけれど、なんでもいい訳じゃない。ああ、まさにこれこれ。センスが良い友だちの家に遊びに来た、あの感覚だ。

レコードが並ぶ居酒屋

木の温かみがある空間に、レコードの音色が染み渡る。これ以上気持ち良いことはない。

「もともとうちのオーナーがレゲエのサウンドマンをしていて、多かったのはレゲエでしたね。ただ、それだけじゃなくて昭和歌謡とかジャズもあって。今では本当にレゲエに限らず色々と流しています」

話を聴きながらレコード棚を漁ると、たしかにすごい。メジャーなものから聞いたこともないようなものまで。ジャンルも国も実にさまざまだ。適当に前からパタパタ見てみると、ユーミン、ダニー・ハサウェイ、パーラメント…。

「お客さんの好きそうなものを見て、適宜変えています。音楽で話が弾むことももちろんあるし、音楽にノってるお客さんがいることもあるし、思い思いに楽しんでもらえればなあと」

ふと思うのはそうか、ここは大衆酒場だ、と。いわゆるミュージックバーならあくまで主役は音楽だし、お客さんもお店のテンションに合わせにいく。店のグルーヴに身を任せるというか、セッションに加わるというか、そんな感じ。

だけど大衆酒場は、人が何を求めてやってくるかはそれぞれ。人や時間、季節など、さまざまな要因で空間の色も目まぐるしく変わる。そんな場だからこそテンセイでは、そのとき、一番心地良い音楽を、サラッとかける。

これもなんだか、友だちの家みたいに思えなくもない。たぶんどんなにコアな音楽好きでも、百発百中そのジャンルしか聴かない、なんて人は珍しくて、普段は色々と聴いているはずだ。

そんななかで、夜だから、みんなとワイワイしたいから、女の子と一緒だから。自分の部屋でかける音楽は、日によって変わる。

この日は、クリスマスの翌日。おもむろに小海さんが針を落としたのは、ダニー・ハサウェイのライブ版。

クリスマスの定番、<This Christmas>が流れる。こんな寒い日に温もりのある、湿っぽい歌声がたまらない。たしかにあまり人がいない時間帯には、こういうしっとりとした曲がかかるのも良い。

そうこうしているうちに、1人、またひとりとお客さんが店に入ってくる。そろそろ良い時間だ。

毎日来たくなる場所

「最近はこういうご時世だからか、一休み、みたいな感じで来るお客さんも多いですね。そういうお客さんにとってもだけど、毎日来たくなるような、通いたくなるようなお店にしたくて」

ふらりと1人で立ち寄る人も多い。音楽フェスやライブハウスはもちろん、みんなで集まることすら敬遠される最近は、やはりたのしみを見出し、日常のストレス発散をすることが難しい。

そうした状況下でも。たのしいものと美味しいものがたくさん詰まった、この不思議な空間に吸い寄せられてくるんだろう。たとえ初めて来た人でもくつろげる居心地の良さがある。

「コロナ禍よりかなり前になるけど、うちの10周年記念で音楽イベントもありましたね。あのときはたのしかったなあ〜。もうほんとに、みんな気兼ねなくわちゃわちゃして、すごく距離も近くて」

聞いているだけで参加したくなるなあ。まあでも、そういうイズムが普段のテンセイにもしっかりと活きているのは間違いない。

それこそ場の空気に合う素敵な音楽が流れて、その日ごとに美味しいものが食べられて、思わず手に取りたくなる素敵なものに囲まれて…。

この絶妙なバランスのなかでの “ライブ感” こそ、通いたくなる、毎日来たくなる、魅力の根っこにあるんだと思う。

塩もつ煮込み

さてさて、寒い日には、やっぱりあったかいものが食べたいよね。居酒屋なら間違いなくもつ煮でしょ。店の看板メニュー、塩もつ煮込みのご登場。ぐつぐついいながら登場したお皿に、思わず歓声をあげてしまうこと必至だ。

ぷるんぷるんのもつを優しい上品な塩ベースのスープで仕上げた、脂から出たとろみや素材の旨さが引きたって病みつきになる絶品。

塩とはいえ濃厚な味わいだから、比較的さっぱりした、サワー系やホッピー、ビールなんかと合わせるもよし。濃厚だけどその繊細な味わいには、日本酒を合わせるもよし。

どんなお酒、音楽、会話ともグルーヴする、万能選手。さあ、カウンター越しに乾杯。

音楽とお酒と人が生み出す、ここだけの時間。

本当に、たった1軒とは思えないくらいの満足感がある。ここにいるだけでワクワクするし、安心するし、お腹いっぱいになれるし、良い気分になれる。テンセイの音楽に対するスタンスはもちろん、他のさまざまな要素も似ていて。

どこかの誰かの家のような、良い意味でのごちゃ混ぜ感が心地良い。音楽がある空間、というと身構えてしまうし、知識や理解がハードルになる気がしちゃうこともあるけど、こういう場なら気兼ねなく行ける気がする。

良い感じの曲がかかったら、話しかけてみてもいいかもしれない。それこそ友だちが家でかけている、なんか良い曲を聴くのと同じように。

今回訪れた場所はこちら

■酒場テンセイ

西荻窪で愛される、小さな大衆酒場。レコードの音に耳を澄ませながらグラスを傾ければ、これ以上居心地のいい空間はそうそう見つからないはず。毎日更新される絶品創作メニューは必食。

住所:東京都杉並区西荻北3丁目2−11 ハイツそれいゆ

Instagram:@sakabatensei

※営業時間や定休日などはInstagramのご参照をお願いします。

記事の創り手について

■アイカワ ヨウヘイ – 取材・執筆

とにかく深く、そして、いつの間にか、広く。なにかを突き詰めていくと、ファッションなら音楽や映画、料理ならお酒、というように、いつの間にか他の分野まで興味が広がって、結果それが豊かさに繋がる、と考えています。好きなことは好きなだけ。時間も労力も惜しまず、深く掘り下げて、みなさんの豊かな日々のお手伝いができれば幸いです。

Instagram:@ivy.bayside

■シミズ シュン – 撮影・編集

チトセの代表と編集長、カメラマンを務めています。“僕らが楽しく生きるために” をテーマに、親しい友人から話を聞いているような、そんな等身大のメディアを目指して。「楽しいから楽しむのではない。楽しむから、楽しいのだ。」という言葉を大切にして、日々を生きています。

Instagram:@shun_booooy

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2021-02-21|
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