原美術館にて。『The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project』

 

けんてぃ
…まだかな、さかもっち。

午前中、銀座POLA MUSEUM ANNEXへと向かった僕たち。

「次の場所へ行ってて〜!」とだけ連絡をしてきたさかもっちをしばらく待っているが、待てど暮らせど来ない。一体どこで油を売っているのか…。

ま、まさか先にいるのでは…?

と思い中をのぞいてみると、僕を見つけたさかもっちが手を降っていた。案の定自由な人だ。

さかもっち
あ、けんてぃ〜!

けんてぃ
さ、先にいたんですか〜。
さかもっち
ごめんごめん、外観が気になって時間を忘れてたよ。

どうやら僕より30分前にはいたらしく、外観をじっくり見ていたんだって。

でもたしかに原美術館の外観は、昨日行った横浜美術館とは違うし、銀座POLA MUSIUM ANNEXともまとっている雰囲気が違う。

なんだか昔の海外の家のような感じだ。これは見とれてしまうのも無理はないな…。

原美術館の建築は、原邦造の邸宅として1938年に渡辺仁によって造られたモダニズム建築、あるいは昭和初期の洋風建築の貴重な例の一つと言われている。

さかもっち
ここでは現在行われている展示のほか、常設作品もある。まずは1Fにある展示から。さっそく見ていこう!

THE NATURE RULES 自然国家

Dreaming of Earth Project(大地の夢プロジェクト)解説ビデオ 30分 2019年

今回の展示「The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project」とは崔在銀(チェ ジェウン)による発案・構成によるもので、朝鮮戦争休戦後、65年余りの歳月を経て「非武装地帯(DMZ/Demilitarized Zone)」に生まれた生態系を守り、生きとし生けるもの全ての共生を願った崔が2014年に立ち上げた「Dreaming of Earth Project(大地の夢プロジェクト)」の構想を可視化する展覧会である。

けんてぃ
崔さんと、崔さんのプロジェクトに共感するアーティストや建築家の方々の知識の集合が、ここ原美術館にはあるわけだ。
さかもっち
うん。展示名の題名となっている「自然国家」というのも、人間ではなく自治が治める国、崔さんの理想とする国のことなんだよ。

イ ブル 「DMZ Jung-Ja Project」紙に鉛筆、水彩、アクリル 30.5×45.5cm 2017年

さかもっち
1953年の停戦後、DMZには300万個の地雷が敷設されたんだ。それ以降緊迫した状況が続いたことで、皮肉にも、今では101種もの絶滅危惧種を含めた、5057種の生物を育む豊かな土地となっているんだよ。

豊かな生態系を、いかにして後世に手渡してゆくか、崔さんはDMZに生息する命と人とが同じ大地の生物として共に生きる方法を探るため、2014年に「大地の夢プロジェクト」を立ち上げ、DMZを舞台に4つの具体的な企画を提案している。

1.空中庭園・東屋(あずまや)・塔の設置

2.DMZ生命と知識の地下貯蔵庫

3.クンイエ都城の森の治癒

4.地雷撤去

このうち今回は1.2.3を中心に可視化されている。

けんてぃ
そこに生息している生物をどう守るかを考えたものがここに展示されているんですね。まずこれは大きなかご?

スタジオ ムンバイ「Tazia」竹、絹糸、金箔 170×170×高300cm 2019年

さかもっち
これは「Tazia(ターゼィエ)」という作品で「聖人を祝福するための小型の文化的記念碑」なんだって。
けんてぃ
Taziaってそもそもなんですか?

さかもっち
アラビア語系の言葉で、イスラム教シーア派でいう「指導者」の意味を表しているんだ。指導者の殉教をいたむ哀悼行事のことだったかな。シーア派にとって、殉教を偲んで涙を流す行為は救済に繋がるとされたため、お祭りの1つとされているそうだよ。

けんてぃ
大地の夢プロジェクトでは空中庭園と東屋が提案されていました。東屋って、庭園にある休憩できる建物のことですよね? ひょっとして人間も動物も誰もが休める休息所としての提案なのかな? なんて。
さかもっち
そうかもしれない。だんだんと思いつくことが鋭くなってきたね。さて、隣の部屋に行ってみよう。

崔在銀 「hatred melts like snow」インスタレーション(DMZの有刺鉄線)、映像4分36秒 ループ、サイズ可変 2019年

けんてぃ
この部屋は…鉄板がありますね。

韓半島を二分する248kmのDMZには、幾重もの鉄条網が約70年にわたり存在してきた。鉄条網は、かつては同じ民族だった者たちが、異なる理念の下に袂を分かち、銃口を向け合うその憎しみを象徴している。私は、境界線から撤去された鉄条網を高熱で溶かすことにした。そして、それを飛び石にし、誰もがその上を歩くことができるようにした。鉄条網は何にでもその姿を変えることができる。心臓、告白、台座、避難所など…。愛を前に、憎しみは雪のように溶けるだろう。(作家のメモより)

さかもっち
この鉄板、DMZに境界線として何重にも敷設されていた鉄条網をいつぶしたものなんだ。だから…よいしょっと。

さかもっち
誰もがその上を行き来できる、鉄の板として展示されているんだ。もちろん他の展示物は踏んではダメだけどね。毎週日曜日のギャラリーガイド時のみ鉄板の上を歩けるんだ。
けんてぃ
ぼ、僕も踏んでみたいです!

けんてぃ
展示物を踏むことに驚きがありますが…不思議ですね。ただ鉄板を踏んでいるだけのように周りからは見えるでしょうけど、「境界として存在していた鉄条網をいつぶしたもの」と知ると、自由を得た気がしてきます。
さかもっち
いろんな思いが伝わるよね。この鉄板を渡り、歩いて奥にある映像へ進む。この部屋を出た廊下には朝鮮戦争の資料があるから見てみようか。

けんてぃ
あっ「休戦」と書かれている箇所はこのあたりですかね。

さかもっち
古びた紙だけど、この紙で戦いが止まったと考えると…ただの紙には思えないね。2階にはDMZへの別の提案作品があるから、そちらも見にいこうか。

崔在銀「To Call by Name」セラミック、鏡、瓶、種 サイズ可変 2019年

名前は種の分類に役立つが、友として呼ばれる名前でなければ、彼らを示すただの音である。あなたの名前を呼ぶ時、私はその名の先の深遠なものを見つめている。そこには何も無い。あるのは今この場にある微かに光る影だけだ。我々は皆、結びついている。我々は皆、ひとつであり、永遠である。(作家のメモより)
けんてぃ
きれいに並べられていますね。何が並べられているんだ…? こっちに映像があるから見てみよう。

崔在銀「To call by Name」映像 2019年

けんてぃ
手作業で1つ1つ並べられてる! この作品にはどんな意味があるんだろう。もっと近くで見てみよう。

けんてぃ
ここにある四角い物、いくつあるんだろう。いち、に…101個か。ん? 101ってどこかで聞いたぞ…?
さかもっち
101個あるこの四角い物。これはさっき話した、DMZに生息している絶滅危惧種の数を表していて、1つ1つに絶滅危惧種の学名が書かれているんだ。

けんてぃ
崔さんたちの考える「国」は、人間とそこに住む動植物との調和によって誕生するものなんだろうな…。
さかもっち
中庭にも展示はあるけど、一旦常設作品を見に行こうか。
けんてぃ
同じ階にありますしね! さかもっち、こっちです!
さかもっち
けんてぃ、口は開いていないけど、目がキラキラしてる…誘って良かったな…

常設作品

宮島達男 「時の連鎖」1989-1994年 発光ダイオード、IC、電線、スティールパネル

けんてぃ
扉がありました、開けてみると…。
けんてぃ
デジタル時計みたいだ。

けんてぃ
なんの数字? なにかを計っているのかな…。あっ!? よく見ると数字の変わるタイミングが違う!
原美術館スタッフ
これは二桁の数字の組になっていて、繰り返し99まで数え続けています。さらによく見ると、「0」が出てきません。壊れているわけではないですよ。決して算数の問題ではなく、カウントを続ける「数字」は題名の「時」とつながっています。私たちにとって、「時」とはなんなのか。人が生まれてから死ぬまでの直線のように進む時間、「昼と夜」のように繰り返す時間。様々な時間のイメージが数字に託されて、この作品には込められているんです。
けんてぃ
楽しくて、「気づいたらこんな時間だ!」ってあっという間に感じるのも、怒られている・つまらないと長く感じるのも、どちらも同じ「時」ですもんね。時って不思議ですよね…。
さかもっち
その隣にも面白いものがあるよ。
けんてぃ
「これはのみみずにあらず?」どっちかというと真ん中の植物がタイトルなのかなと思いましたが、なんでこのタイトルなんでしょうか。

須田悦弘 「此レハ飲水ニ非ズ」2004年 木

さかもっち
部屋の奥にある蛇口跡の上を見てごらん。疑問が晴れるよ。

さかもっち
数十年前、原美術館が住宅や宿舎だった頃に貼られた紙が今も残っていて、「This water unfit for drinking」と書かれてるんだ。それがそのままタイトルになったんだよ。
けんてぃ
作品名の由来がインパクトありすぎですよ…! そんなこともあるんですね。

この後常設作品を多く見たぼくらは、屋外の中庭にある作品を見に行った。

三島喜美代 「Newspaper-84-E」1984年 セラミック、シルクスクリーン

このときちょうど美術館のスタッフにお話できる機会ができたので、芸術を楽しんでいる僕らは様々な質問をしたんだ。

けんてぃ
原美術館は「現代美術」を主として展示していますが、古くからある作品と現代美術を比べて、 なにかちがいや魅力といったものはありますか? また、原美術館が伝えたい現代美術の魅力とはなんでしょうか?
原美術館スタッフ
同時代を生きる作家の表現を通して、新しい考えや世界に出会えることが現代美術の魅力のひとつです。 公開制作で作品が出来上がっていく様子を実際に見られたり、レクチャーやワークショップなどで作家本人と交流できるのも、現代美術の楽しいところではないでしょうか。

さかもっち
展示物の展示の仕方に何か工夫はありますか?

原美術館スタッフ
元邸宅の当館は、展示空間がゆるやかにカーブしていたり、元バスルームなどの小空間が点在している など、一般的な美術館の空間とは異なる特徴を持っています。そのため、この空間にあわせた展示構成を考える場合がほとんどです。作家が新作を作る場合には下見をしてもらい、空間と合った作品を考えて もらったり、作家の方から展示方法・壁の色などを含めたこうしたいと言う提案をしてもらうことなどもあります。

けんてぃ
最後に、美術館の楽しみ方、歩き方といったものはありますか?

原美術館スタッフ
美術の楽しみ方にルールはありません。難しく考えすぎて、食わず嫌いになってしまうのはもったいないと思います。まずは「習うより慣れろ」で、いろいろな作品を見て、興味を持てる作品や作家があったら、そこから調べていくのも良いかもしれません。 美術館では無料で作品解説を行っているところも多くあるので、そういったものに参加してみるのもおすすめです。
さかもっち
貴重なお話ありがとうございます。
けんてぃ
ぜひ参考にします! ありがとうございました。

原美術館では毎週日曜日14:30より、予約不要で学芸員による作品解説を行っている。気軽に参加してみて、芸術への楽しさをより深めていこう。

終わりに

けんてぃ
美術館の数だけその美術館の良さってあるんだな、と3ヶ所目の原美術館に来て感じました。ひとつのプロジェクトに多角的な視点から見たアプローチをする展示、そして多くの芸術家の作品すべてが、モダニズム建築に上手く調和されている。そんなイメージを持てました。
さかもっち
いいイメージだね。ところで最初の「美術館初心者」の頃と比べてどう?
けんてぃ
すっかり美術館に行くことが好きになりましたよ。なんであんなに足踏みをしていたのやら。

さかもっち
芸術鑑賞を好きになってくれて良かった。これからも芸術を嗜む休日を過ごそう。それじゃ日も暮れて来たし帰ろうか…ってけんてぃ? 先に門で待っているからね。

原美術館の中庭

芸術はパワー溢れるものだ。

「人に伝えたい、なにかをこの世界に残したい。」、そうした強い想いから芸術家は作品を創ると思う。

芸術家の強い気持ちが宿った作品からは、まるで「ここにいるぞ」と強く訴えているように感じる。

そんな作品を見ると僕はパワーをもらえるのだ。作品ごとにその訴えは多種多様で、いろんな表現をしてくれる。

様々な表現を持つ作品を展示する美術館・ギャラリーには感謝の気持ちしかないし、訪れる機会をくれたさかもっちにも感謝の気持ちでいっぱいだ。

「またパワーをもらいにこの場所へ来るよ。またね。」

そう原美術館に向けてつぶやき、僕はさかもっちを追った。

展示紹介

■「The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project」

期間:20194月13日(土)~7月28()  開館日数93日

場所:原美術館

住所:東京都品川区北品川4-7-25

時間:11:00~17:00(水曜日は20時まで/入館は閉館時刻はの30分前まで)

休館日:月曜日(7月15日を除く)、7月16日

入館料:一般 ¥1,100 、大高生 ¥700 、小中生 ¥500、70歳以上550円、原美術館メンバーは無料
(学期中の土曜日は小中高生無料、20名以上の団体は1人100円引)

交通案内:JR「品川駅」高輪口より徒歩15分、タクシー5分、 都営バス「反96」系統「御殿山」停留所下車、徒歩3分、京急線「北品川駅」より徒歩8分

HP:原美術館

Instagram:原美術館

Twitter:原美術館

2019-06-17|タグ: ,
チトセSNS更新中!
関連記事