ついこのまえ、東京は御茶ノ水にてクラフトビールを楽しんだ僕。クラフトビール造りが茨城県にある醸造所で体験できるとのことで、せっかくだし体験してみようと思いたち、善は急げと予約した。
そして当日。都心から特急を乗り継ぐこと約1時間半。自然豊かな茨城県那珂市にクラフトビールの醸造所がある。木造作りで風情のある立派な盾構えだ。
その歴史はなんと江戸時代にさかのぼる。元は日本酒の蔵元として始めたのが起源なんだって。
1990年代後半から日本酒で培ったお酒作りのノウハウを応用して始めたのが、このビール醸造所を構えるきっかけになったそう。
脈々と受け継がれた伝統と雰囲気に胸を高鳴らせながら、正面の入口をくぐる。
1.レシピ作り
工房内に入り案内された席に着くと、早速ビールのレシピ作りからスタート。
4種類のビールをベースとし、アルコール度数、色の濃淡を決めていくようだ。
もちろん、試飲もOK。自分好みの色にするのもよし。ビールを配りたい人たちの好みを思って選んだり、贈りたい人のことを想って選ぶのもまた良し。
次に、9種類のホップから好みの1〜3種類を選んでいく。
フルーティな香り、スパイシーな香りなど細かな調整が可能だ。その他に副原料として、オレンジピール、ナツメグ、コリアンダーを使用するかも決めていく。
これにてレシピが完成!
2.麦芽の軽量、破砕
レシピが定まったら、ビールの主原料である麦芽の計量と破砕の作業へ。レシピ通りに異なる麦芽を、きっちりと計量。
配合する原料の割合が重要で、ビールの味に影響がでるから慎重に。1つの容器にまとめたら、機械で破砕していく。
重さは約7kg。ずっしりとした重さだ。
3.麦芽の投入、混ぜ合わせ
ここからはいよいよ、釜の前での作業に。破砕した麦芽をお湯の入った窯の中へと投入し、念入りにかき混ぜていく。
いざやってみるとなかなか大変な力仕事。最初はすんなりと出来るものの、麦芽がだんだんと水分を吸っていくので、かき混ぜる力に重さがぐっと増していく。
これが混ざることで、いわゆる「麦汁」が出来ていくようだ。
麦芽と水がよく混ざり合ったら、釜の下から麦汁を出して、ジョッキで受け、上に戻す循環作業を行っていく。
釜の下から麦汁を出して、上へ戻していくこの循環作業。なぜやるかといえば、さきほどのかき混ぜる作業で混ざり合わなかった分まで、釜の中を混ぜ合わしていくためらしい。
これを5回繰り返せばひとまずこの作業はオッケー。
4.昇温、糖化
次に、釜自体の温度を上げていく。麦芽の成分内にあるでんぷんを、麦芽糖に変化させていくとのこと。む、むずかしい話だ…。
麦芽のもつ酵母の力だけで砂糖を発生させるんだって。温度を上げて65〜67度にて保てたら、一旦昇温を止めて40分間置いておく。
しばし、小休止。
40分間置いておく間にランチを。メニューは常陸野ブルーイングラボでも提供されている、「常陸サバサンド」。
そうそう、そういえば、シンボルとなっているこのフクロウ。
なぜこのロゴなのかスタッフさんへ尋ねてみると、ここ那珂市はかつてフクロウが多く生息していた土地であり、田舎の雑木林のイメージ、そして土地の名称「鴻巣」の「巣=NEST」、世界へ販売することを考えた時に、どの国の人達にも喜んでもらえるフクロウがロゴとなった理由なんだって。
5.ヨウ素テスト
お昼休憩の前後で、すでにこんなにも変化が。麦芽のでんぷんが糖へ変化したかどうか確認するため、少量の麦汁にヨウ素液を加えて確かめる。
6.マッシュアウト
青紫色に変化しないのを確認したのち、67度まで加熱。でんぷんを麦芽糖へと変化させてくれた酵素とは、ここでお別れだ。
さきほどの循環作業によって出来あがった麦の層が崩れないように、そっと行っていく。
7.ろ過
次の作業へ移る際、スタッフさんからアドバイスが。
「これから実施する作業はみなさんのオリジナルビールの美味しさを大きく左右する作業になります。
醸造体験も残すところあと少し。頑張っていきましょう!」
どうやらここが決め手となりそうだ。手順としては、窯に入っている麦汁を散り出していく。1回に出せる量は本当に少ない。
ここで出来た麦汁が、俗に言う「一番麦汁」と呼ばれるもの。
急いで蛇口部分をひねると麦芽の粕が一緒に出てきてしまうので、微調整が思ったよりも大変。
でも、こうした細かい作業の積み重ねがあることによって、あの黄金色の液体が作られると思うと、職人さんへのリスペクトの気持ちがより一層強くなる。
8.移動、スパージング
一番麦汁を取り出した後は、お湯を注いでいく。ここにもポイントがあって、なんとじょうろで注いでいくとのこと。
こうすることで、ろ過フィルターの役割を担う麦芽の層を崩すことなく、粕や濁りが取り除かれた麦汁を出せる。
これは、「二番麦汁」と呼ばれるもの。空気に麦芽を触れさせてしまうとおいしさが損なわれてしまうので、麦芽の層の常に1cm〜2cm上の水かさを保っていく。
9.麦芽粕の取り出し
多大な役目を果たした麦芽を余すことなく、袋へ移し替えていく。近くの農業高校で家畜の飼料になるんだって。
環境にも配慮した、サスティナブルな取り組みだ。
10.煮沸、ホップ・副材料添加
別の窯に移し替えたさきほどの麦汁を、一気に100℃まで上げる。ビールの苦味づけとなるファーストホップを投入して、20分間煮沸。
香りづけとなるセカンドホップを投入して、10分間煮沸。
最後に先ほどとは別のメインの香り付けとなるサードホップを投入して、5分間煮沸。
合計で35分間煮沸状態を続けていく。ビールの主成分となるホップ。
この役割ってそもそも何なのか、醸造士さんへ尋ねてみたところ、まず、1つ目が苦味、2つ目がビールへの香りづけ、3つ目がビール自体の泡持ちを良くする、4つ目が殺菌作用だそう。
こんなにもホップに効用があったことを知って、ますますビールへの興味が湧いてくる。
煮沸終了時を見計らって、副材料のオレンジピール、ナツメグ、コリアンダーも投入。
11.ワールプール・ワールプールレスト
ここまでくると、いよいよビール工房での作業は最終局面へ。完成した麦汁を一定方向にかき混ぜ、ホップなどを沈殿させるために15分間置く。
12.麦汁冷却
熱々の麦汁を、このあとの工程で添加する酵母菌が働きやすくなるように20℃前後まで急冷しながら、発酵容器に取りだしていく。
麦の力によって作りだされた糖を酵母菌が食べることで、アルコールが発生していく。これでビールが完成へと近づいていくようだ。
工程を重ねるにつれて、麦汁は変化の一途をたどっていく。
左が最初に麦芽を投入し混ぜ合わせた麦汁。優しい味であるものの、雑味が取れていないので口当たりがざらざらとしている。そして、無味に近しい。
真ん中がお昼休憩後の麦芽のでんぷんが糖へ変わった際の麦汁。でんぷんが糖へ変化したので、とにかく甘味がある。先ほど比べると、雑味は少々取れている。
一番右が冷却後の麦汁。雑味がなくすっきり。ホップの爽やかさと香りも相まってビールにほとんど近しい。
この目や口によって感じられる変化は、お店のビールでは体験できない特別なこと。
モノとして持ち帰れることはもちろん、醸造の過程を知ることができるコトとしての楽しさもあって、金額以上の満足感だ!
ビール作りは大変だ…!
以上で、ビール工房での体験は終了。このあとの工程はスタッフさんにお任せして、あとは自宅へ届くのを待つのみ!
実際に手を動かしてみることで、ビール作りの大変さ、新しい発見、さらにはビールへのさらなる魅力の深さに気づくことが出来た。完成が待ち遠しいね。
木内酒造さん、ありがとうございました!
店舗詳細
■手造りビール工房
住所:茨城県那珂市鴻巣1257
電話:029-270-7955
時間:完全予約制(午前の部;10時〜、午後の部:13時〜)
料金:¥28,100〜(製造数量、曜日により異なる)