美味しいコーヒーと、そうでないコーヒー。その違いは “人” にあると思う。
美味しいと感じるコーヒーには、淹れてくれるバリスタの人柄や想いが滲み出ている気がするんだ。お店を営む彼らに対して、コーヒーをとりまくあれこれについてとことん聞いてみたい。
コーヒーを淹れる人にフォーカスしたシリーズ【コーヒーが好きです。】。第2弾は、逗子に店舗を構える『BREATHER COFFEE』。
vol.2 BREATHER COFFEE @逗子
吹いてくる風がかなり冷たくなってきた秋の頃、僕は神奈川県の逗子にやってきた。
逗子といえばビーチやマリーナで知られている海の街。
どこか遠い国のリゾート感が漂うこの街に、コーヒーの専門店、『BREATHER COFFEE』がある。
逗子の青く澄んだ空に映える白い外壁と、窓一面に施されたアートが特徴のコーヒースタンド。
週末になれば人で溢れるこのお店。特に、最近は逗子や湘南のカルチャーを広めるためにコーヒーフェスも企画している。
幸い、まだ開店してすぐだったからお客さんは少ない。早速、入ってみよう。
美味しいコーヒーと居心地の良い空間。
ドアを開けてまず飛び込んでくるのはその「白さ」。壁からコーヒーマシンから、何から何まで「白」一色だ。
天井も高く、まるで日本じゃないような感じがする。
気になった僕は、さっそくこのカフェのオーナーの長谷川さんに話しかけてみることに。
長谷川さんはもともとサラリーマンをしていたんだけど、コーヒーを勉強したいと思い、単身メルボルンへ。
オーストラリアのコーヒーの名店「Krimper」でヘッドバリスタを務め、そのあと、日本でBREATHER COFFEEを開いた。
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店名の「BREATHER」には、「呼吸をする生命体」という意味と「深呼吸、一休み」という意味が込められているそう。
真っ白なカウンターにピカピカのエスプレッソマシンはよく映える。
このお店のメニューは、長谷川さんが慣れ親しんだメルボルンのラインナップ。
熱いお湯にエスプレッソを落としたロングブラック、ラテよりもミルキーな口当たりのフラットホワイト、そしてチョコレートパウダーが振りかけられたカプチーノ。
これがメルボルンスタイルなんだって。悩んだ末に僕はフラットホワイトを選んだ。
なれた手つきでフラットホワイトを作る長谷川さん。さっきまでの笑顔とはちょっと変わって、その眼差しは真剣そのもの。
慎重にかつ大胆にエスプレッソを落とし、ミルクをスチームする。チチチというスチームの音が店内に響く。
この音が聞こえてくると、もうすぐ完成の合図だ。
カップを傾けて、慎重にミルクを注ぐ。フラットホワイトはミルクのきめ細やかさが大切だ。
空気を入れすぎてしまっては口当たりが悪くなるし、逆に空気を抜きすぎるとエスプレッソと混ざり合いすぎてしまう。
一口飲んでみる。うん、とっても美味しい。
だんだんとお店にお客さんが増えてきた。中には外国のお客さんもちらほら。流暢な英語で会話を楽しむ長谷川さん夫妻。
聞いてみると、彼らの中には1日に2度や3度訪れる人も少なくないとのこと。
特に、長谷川さん夫妻が働いていたメルボルンではコーヒーが日常に溶け込んでいるらしい。
人によっては朝、昼、晩と1日に3度はカフェに行き、コーヒーを楽しむ。
朝、コーヒーを買い、そのままカフェでMTGを始める光景も多いという。だからこそ、平日は朝7時からオープンしている。
朝ギリギリまで眠って急いで支度をし、電車に飛び乗るのではなく、ちょっとだけ早く起きてコーヒーを飲んでみる。
朝の時間をゆっくりと過ごしてから仕事を始めてほしいという想いから、朝7時にオープンしているのだそう。
もっとBREATHER COFFEEのことが知りたくなった僕は、次にラテとバナナブレッドをオーダー。
このバナナブレッドはメルボルンでは定番の食べ物。向こうではこれをトーストしてバターをつけて食べるんだって。
他にもこっちでいうホットサンドの「ジャッフル」やお菓子も食べられる。
まるで、本当にメルボルンに来たみたいだ。
僕たちにしかできないことをやりたかった。
なんでこうも細部に至るまでメルボルンスタイルなんだろう? と思う僕に、長谷川さんが話しかけてくれた。
「メルボルンで見た、コーヒーを飲むことが当たり前のように生活に溶け込んでいる光景。
小さい子どもからお年寄りまで、いろんな人たちがコーヒーを楽しんでいるメルボルンのスタイルを日本にも根づかせたい。
それも、ただ真似るだけではなく、僕たちらしさを通してメルボルンスタイルを伝えていきたい。
だから、このカフェには特にルールは設けていない。もちろん、最低限のルールはあるものの、自由に会話を楽しんだり、写真を撮ったり、本を読んだりしてほしい。
なぜなら僕たちが目指すカフェ像は、「生活の一部のようなカフェ」だから。
朝起きてカフェに行き、コーヒーを飲んで仕事をし、ランチの後に立ち寄ったり、仕事に後にふらっと訪れて会話を楽しむような、そんなカフェを目指しているから。」
歯を磨くように。生活の中に、コーヒーが組み込まれている。
そんなカフェを目指して、長谷川さんたちはここ、逗子でBREATHER COFFEEを始めたそうだ。
コーヒーを伝えることが僕たちの使命。
最後に、長谷川さんたちは僕にコーヒーを通して伝えたい想いについて教えてくれた。
それはコーヒーそのものを”伝えること”。コーヒーの味や特徴をちゃんと伝えることで、その人にとってのコーヒー像が変わるきっかけになるかもしれないから。
ここ逗子にはおじいちゃん、おばあちゃんも多いとのこと。彼らにとってこのメルボルンスタイルは、これまでのコーヒー像とはちょっと違う。
だから、人によっては「酸っぱい」とか、「薄い」とか、印象はさまざまだ。だからこそ、しっかりと「会話」を通してコーヒーの良さを伝えたい。
長谷川さんは僕にそう語ってくれた。
グラスに注がれたラテと、こんがりと焼き上がったバナナブレッド。これもメルボルンスタイル。
お店を見渡してみると、どの人も自分の時間を楽しんでいるように見える。
窓の壁一面のアートにもその様子が描かれている。これはこのお店の常連のアーティストが窓越しにくつろぐお客さんの様子をなぞったものだそう。
小さい子から、お年寄りまで。 この光景こそ、長谷川さんたちが思い描いたメルボルンのスタイルなのかもしれない。
BREATHER COFFEEが教えてくれたこと。
帰りの電車の中で、今日の一日を振り返る。BREATHER COFFEEさんとの出会い、びっくりするほどおいしいフラットホワイト、ラテ、そしてバナナブレッド。
なにより驚きだったのは、みんながコーヒーを楽しんでいるということ。
もしかしたら。もしかしたら僕は、コーヒーを楽しめていなかったのかもしれない。
今日の出会いを胸に、家に帰ったらすぐにコーヒーを淹れてみよう。僕はコーヒーが、好きだから。
店舗情報
住所:神奈川県逗子市逗子7-6-33 塩沢ビル1F
電話:046-815-6885
時間: 7:00 – 17:00(平日)/ 8:00-17:00(土日祝日)
休み:水曜日