銭湯に踏み出すあと一歩を作り出す。銭湯×写真の魅力ってなんだろう

街に自然と馴染んでいる場所のひとつに、銭湯がある。

ある銭湯は住宅街の中にそっと立っていて、ある銭湯は目立つ煙突や店構えでその存在を主張している。

でも僕たちは、銭湯の中に足を踏み入れたことが何回あるだろうか。

銭湯好きは言う。「一度行けばその良さが分かる」と。そんなに良い場所を若いうちに知っておかないのは、たしかにちょっともったいないのかもしれない。

若い世代にも銭湯の良さを知ってもらいたい、足を運んでもらいたいと活動する3人組のグループがいる。

彼女たちは「スーパー銭湯さしすせそ」というグループ名で“銭湯×写真”をテーマに活動し、2020年2月には北区にある『殿上湯』で2回目となる写真展の開催が決まっている。

この記事では、その展示への想い、そして銭湯という日本の文化への思いを伺った。

銭湯×写真の魅力ってなんなのだろう。

彼女たちの活動への底にある想いを聞けば、きっと誰しもが銭湯に行きたくてたまらなくなるはずだ。

「スーパー銭湯さしすせそ」の始まりは

左から、佐々木悠さん、しばたみのりさん、曽根香住さん

スーパー銭湯さしすせそのメンバーは、日本大学芸術学部写真学科に通っている。

ファッションポートレートを撮る佐々木悠(ささき・はるか)さん、ポートレートを撮るしばたみのりさん、そしてフードアートを撮っている曽根香住(そね・かすみ)さんの3人。

しばたみのりさん

—銭湯×写真って今までありそうでなかったですよね。何がきっかけで「スーパー銭湯さしすせそ」として活動することになったんですか?

しばたさん もともと仲が良かったので、「3人でなにかやりたいよね」という話が自然に出て。でも、最初から銭湯をテーマにすることは決まっていませんでした。芸術学部の学祭では写真を展示するスペースがもらえるんですけど、普通は壁1m幅くらいを使って展示するのがスタンダード。でも数組だけ、教室の1室を借りて展示できる権利があるんです。その部屋でだったらひとりでも何人でも一緒にやっていいので、2018年秋の芸祭で展示をすることがまず最初に決まりました。

—銭湯スタートではなかったんですね。展示することが決まって、そのあとはどんな経緯で銭湯がテーマに決まったんでしょうか?

しばたさん 3人で一緒にやると決めたものの、撮っているものがポートレートとフードアートとで違うので、モノをテーマにするのは難しいという意見になりました。それで、モノではなく空間を舞台にして撮るという話になり、おたがいに好きな場所を出し合った時に、お風呂が案に上がったんです。

—そこでお風呂が出てくるの面白いですね。

しばたさん もともと曽根はひとりでお風呂の作品を撮っていたんですよ。でもお風呂だと、私と佐々木が撮りにくいなって。それでお風呂を大きい場所に広げたらって考えたら、「銭湯…?」とつながって。今でこそ“銭湯女子”という言葉が生まれテレビで特集されることも多いですが、活動を始めた当時はそんなに注目されていませんでした。それに、同世代から見て銭湯は年配の方が行く場所というイメージも強い。そこを私たちの世代が銭湯で写真を撮って、広められれば、自ずと日本の文化を同世代に伝える機会が増えるんじゃないかなと思ったんです。

曽根香住さん

曽根さん 私たちも嬉しいし、銭湯も嬉しいという関係になれたらと思ってます。

しばたさん それもあるし、銭湯と写真という組み合わせを聞いたことがなかったのも理由のひとつですね。銭湯に決まったあと、佐々木、柴田、曽根、銭湯でサ行だけど“す”がないよねと。そこでちょっと無理やりだけど「スーパー銭湯」で繋げました。よく「スーパー銭湯で撮ってないよね」って言われるんですけど、スーパーな銭湯という意味合いで使ってるんです。

「殿上湯」での2回目の展示は「2020 おめで湯」

学祭の展示から始まったスーパー銭湯さしすせその活動。そのあと、2019年1月には北区にある銭湯「殿上湯」では銭湯内での写真展を初めて行った。

そして2回目となる今回は、「2020 おめで湯」と題した、パワーアップした写真が見られるらしい。これは楽しみだ!

前回フライヤー

—前回の写真展ではどんな反響がありましたか?

しばたさん 初日にオープニングパーティーをやったんですけど、今回の写真展で初めて銭湯にきたという方が多くいました。「銭湯ってすごくいいね!」と言ってくれたり、イベントのあとから銭湯に行くようになったって声もいただいたり。私たちが活動を始めるときに目指していた、銭湯も私たちの写真も嬉しいという関係になれていると感じられたのが前回のイベントでした。時間が経ってから会った子にも「この前の銭湯の展示行きたかった〜」と言われて、同世代の子にもちゃんと広まっているのかなって感じることができて。

—あらためて、すごくすてきなきっかけ作りだと感じます。2月に行う2回目の展示はパワーアップして帰ってきたと伺いました。

しばたさん まず3人の作品全体としてパワーアップしたのは、撮らせていただいた銭湯の数が5カ所になったことですね。5カ所で撮影した写真を一気に展示するので、色々な銭湯の様子が分かるし、私たちも撮影する場所に合わせてモデルや写すものを全部変えているので、見応えがアップしていると思います。

曽根さんの作品

—それぞれの作品ではどんな部分がパワーアップしているんですか?

曽根さん 私はロブスターなど去年は買えなかったものを買って、少しお金をかけてみました。もともとお風呂場にあるものを食べ物で表現する作品を撮っていたんですが、2人と一緒に活動することになったとき、やっぱりモノを撮りたいなって気持ちがあって。銭湯って普段は飲食禁止なんですけど、そういった場所に生の食べ物を置くことで違和感を生むのが私の作品のテーマになっています。タイルなど規則正しく並んでいるもののなかに、自然で作られたものが置いてあるとすごくグッとくる。その違和感が面白いなあと思って、銭湯と食べ物をテーマにしています。

—溶け込んでいるようで、意外と違和感があるのが不思議な感じです…。柴田さんと佐々木さんは、曽根さんの作品で一番好きな写真はなんですか?

しばたさん パプリカ、たい焼き、あとカヌレもいい。

佐々木さん ブロッコリーもいいよね。何度見てもいい。

佐々木悠さん

—佐々木さんの作品ではどの部分を見てもらいたいですか?

佐々木さん 就活時期を挟んだんですが、1回目の写真展で展示した作品をポートフォリオに入れて、たくさんの企業の方から意見をもらって、写真的に成長できた部分が大きいと思います。私は普段ファッションポートレートを撮ったり、メイクも好きでセルフポートレートを撮っています。モードな洋服や衣装っぽい服、トレンドの服をモデルさんに着てもらって、銭湯という和の場所で撮ることで、今と昔のコントラストで面白さを出せたらいいなと思ってるんです。メイクも派手というかアートっぽい感じのメイクにしています。和と洋の差が強い方が作品として面白いかなと。

佐々木さんの作品

—同じ場所で撮っているのに、まったく違った銭湯に見えます。柴田さんはいかがですか?

しばたさん 私たちみたいに銭湯を広める活動をしている人たちと、ちょっとしたコラボのような形で写真を撮ったところですかね。前回、殿上湯さんで写真展をさせてもらったときに銭湯好きの友だちが一気に増えたんですが、そのなかの3人のクリエイターの方々から銭湯に関連して作ったグッズをお借りして、モデルさんに着てもらい写真を撮りました。私は銭湯をひとつの空間として捉えていて、そこに使われている色を見て写真を撮っているんです。椅子とか、ロッカーの色とか、そこに理由はないんだろうけど、ただ単にビジュアルとしてもうかわいい。たとえばピンクのタイルがあったとしたら、そのタイルの奥にはこの色の服を着た女の子がいたらかわいいなって考えながら写真を撮っているので、あまり銭湯というのは意識していない写真が見られるかと思います。

しばたさんの作品

銭湯へ足を運ぶきっかけのひとつになれたら

作品としての写真。どんなところを見たらいいのか分からないという人もなかにはいるかもしれない。

でも、彼女たちの写真はそんなことを考える暇ないくらい頭に直接的に、“面白い”という感覚がやってくるのがとても魅力的なんだ。

展示の面白い見方も提案してくれている。それが洋服を着たまま銭湯に入れる“開放日”だ。

—展示は通常の営業時間と、別に開放日も設定されていますよね。どんな意図があるんですか?

しばたさん 通常の営業だともちろん自分の性別の方しか見られないですよね。でも私たちは男湯と女湯で展示写真を変えているし、脱衣所と浴場のどちらにも写真を展示しています。そうなると見れない写真も多く発生してしまうので、できれば両方見てもらいたいという気持ちを込めて、服を着たまま、写真撮影もOKという開放日を作りました。

—銭湯で撮った写真を、実際に銭湯まで足を運んで鑑賞するというのは特別な体験になりますよね。

曽根さん この写真展をきっかけに、銭湯に興味を持ってもらえたらと思っています。

私の作品は食べ物を置いてある違和感を楽しんでもらうのがテーマ。なので、実際に足を運んでもらって、ここに置いてあったんだなっていう発見とか、写真と実際との違いも楽しんでもらえるんじゃないかなと思います。

佐々木さん 今回は広報にも力を入れていて、よりたくさんの人に来てもらおうというのを課題にしています。前回も多くの人に来ていただいて、初めて銭湯に来た人とか、銭湯は遠い存在という間違ったイメージを変えられたと思うし、銭湯を好きになってくれた人もいると思うんですけど、その輪をもっと大きくしたい。展示をする殿上湯さんも、撮らせていただいた5カ所の銭湯はどこもとても素敵で。そのことをもっと知ってもらって、行きたいと思えるようにしたいです。

—殿上湯さんは展示以外にもいろんな面白い取り組みをされていますよね。

佐々木さん そうなんです。番頭のノブさんは銭湯は身近なところだよっていうイメージを広めてる、銭湯経営者のひとりで、「朝湯カフェ」とか「銭湯のピアニスト」とかたくさんの人が来てくれるようなイベントを積極的に行ってて本当にすごいんです。

—「銭湯のピアニスト」はもしかしてピアノを持ってきて…?

しばたさん そうなんです! 銭湯の浴場にグランドピアノを入れてるんですよ。

殿上湯さんの浴場は天井が高いので、ピアノを入れたら面白いよねって発想することまではみんないくかもしれないけど、それをやりきるエネルギーがすごいし、本当にかっこいい。

カフェに行くぐらいの気軽さで銭湯へ

撮影場所や展示場所を快く提供してくれる銭湯の懐の深さがすごく伝わってきた。銭湯の玄関に足を踏み入れるまで、あと一歩。

—銭湯って見逃しがちな場所でしたけど、すごく興味がわいてきました。銭湯は若い世代にとってどんな場所になりうる可能性があると思いますか?

曽根さん 地元の人たちが集まれる場所ですね。今は年配の方が行く場所というイメージが強いですけど、世代問わず身近に感じられる場所であってほしいです。

殿上湯さんで展示をすることが決まった時、3人で開店前に挨拶しに行ったんですけど、開店時間になった瞬間にお客さんがぶわーって入ってきて「こんにちは、いつもどうも」って自然にやり取りをしていたんです。その光景が驚きだったし、嬉しかったから、これからもそうした場所として残ってほしい。

佐々木さん ちゃんと生活の一部として銭湯があるんだなっていうのを感じたよね。

しばたさん それこそカフェに行くような気軽なテンションで行ける場所だと思うんですよ。カフェもそうですけど、手ぶらで行けるし、ひとりで行っても、ふたりで行ってもいい。ひとりで1回行ってみて、今度は誰かと来たいと思ったら誰かを連れて来てもいい。食事、カフェ、入浴、銭湯みたいな感じで特別視しない。

写真を撮ってシェアはできないけど、だからこそ、自分の中だけで完結できる場所として、趣味がひとつ増えるくらいの感覚で行ってみてもいいのかなと。

佐々木さん 銭湯って人によって入る長さも違うだろうし、人それぞれの楽しみ方を見つけられる場所として使ってほしいと思います。それに、銭湯が好きな人はみんな優しいから安心して行って大丈夫です。

曽根さん とりあえず一度行ってみたら良さを実感できるし、好きになれるはずです。

あそこの銭湯に行ってみようかな?

そう言えば僕が住む街にも、小さいけれど銭湯があったはずだ。

あの小さくて頼りなさげな扉の向こうに、こんなに楽しい世界が広がっているだなんて、思いもしなかった。

銭湯×写真のアートとしての面白さも、個人と銭湯との向き合い方も今ならグッと身近に感じられる。

ああ今週末は、あそこの銭湯に思い切って飛び込んでみよう。こんなに近くに自分を豊かにしてくれる場所があるだなんて。

イベント詳細

スーパー銭湯さしすせそ「#2020おめで湯」

●期間:2020年2月7日(金)〜2月21日(金)
●会場:殿上湯(JR/南北線 駒込駅より徒歩15分)

●オープニングイベント(入浴はできません)
2月7日(金)18時〜22時
入場料:500円
限定フード/ドリンクの販売あり
服を着たまま、女湯・男湯ともにご覧いただけます。
脱衣場、浴槽の写真撮影可能。
さしすせそメンバーは全員在廊いたします。

●開放日
2月11日(火)11時〜15時
2月21日(金)10時〜17時
入場料500円
服を着たまま、女湯・男湯ともにご覧いただけます。
脱衣場、浴槽の写真撮影可能。
さしすせそメンバーは全員在廊いたします。

●ご入力可能日
2月8日(土)〜2月20日(木)16時〜23時(殿上湯の営業時間に準ずる)
2月14日(金)定休日のためおやすみ
入浴料470円
写真撮影は禁止とさせていただきます

2020-02-05|タグ: ,
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