映画って、学ぶことが本当にたくさんある。たったの2時間、されど2時間。
その時間に凝縮されたものは、1回観ただけじゃ物足りないくらい。
それに、観る人によっても、観るタイミングによっても、学ぶことはそれぞれ違う。
物語はもちろん、歴史やファッションに、音楽。自分になにかしらの影響を与えてくれるものが、映画にはとにかくたくさん出てくる。
とすれば、映画のなかに出てくるさまざまな要素について、各分野で仕事をしているあの人は、いったいどんな視点を持って映画を観ているんだろう?
この企画では、美容師、イラストレーター、古着屋スタッフの3人の友達に、映画の話を聞いてみた。彼らは、映画からどんなことを感じて、何を学んでいるんだろう。
今まで観た映画でも、新しい発見があるかもしれない! さっそく聞いてみよう!
1. マコト / 26 / 美容師
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ヘアサロン『siki』(シキ)でスタイリストとして働いている彼。
音楽をやっている兄弟の影響もあって、美容学生になる前からファッションやヘアには興味があったそう。
ナチュラルな雰囲気のかわいいヘアスタイルがたくさん並んでいて、目を惹く彼のインスタは要チェック。
ギャラリーからは、かわいいだけじゃなく、お客様に対して真摯に向き合う姿勢も感じられる。
また、その合間合間に見える映画紹介から、映画好きの一面がよく分かる。そんな彼に、映画と仕事について聞いてみよう。
1. 映画は普段どれくらい観ますか? また、映画を観るようになったキッカケはなんでしょう?
スタイリストになってからは、週に1本くらいです。映画を観るようになったキッカケは、美容学生の頃通っていたサロンの方に勧められたから。
勧めてくれた方からは、「映画をただ観るのではなくて、ファッションやヘアスタイル、インテリアに注目した見方をすると勉強になるよ。作品の年代の勉強にもなるしね。」と言葉をいただいて。
それから、たくさん観るようになりました。
2. 普段映画を観るとき、何を基準に作品を選んでますか?
ジャケット、予告で惹かれるかどうか、好きな映画監督かどうかの3点が大きいですね。
その監督だから見てみようとなりますし。あとは、雑誌の映画特集で気になったものを観たりもします。
ジャケットは色合いやスタイルがかわいくて、勉強になりそうだなと思うと手に取ることが多いかも。
仕事柄、お客様から勧められたものを観にいくことも多いと思います。
--普段は自宅と映画館、どちらで観ることが多いですか?
どちらでも見ていますが、なるべく映画館で観ることを心がけてます。
大きいスクリーンだとやっぱり迫力が違うし、サウンドもまったく違いますよね。
とにかく、体の内側に入ってくる感覚? の大きさが全然違います。
3. 今まで観たなかで、自分の考え方に影響を与えた作品はありますか?
〈セッション〉です。この作品は特に大切にしています。
話としては、ドラムをやっている少年がプロを目指して優秀な音楽院に進学し、鬼教官と出会って…というストーリーなんですが、好きなことをするとなっても、それを極めるとなると並大抵の努力ではダメで。
それ以上の努力をした先にしか分からない。そんなステージがあるということを、この作品を観て知りました。
僕ら美容師も終わりのない、限界がない仕事ですから。極めていくためには、努力を怠ってはいけないということを学びましたね。
作品のなかで特に印象に残っているシーンがあって。鬼教官が主人公に「世界で一番危険な英語はわかるか?」と聞くんです。
その鬼教官は、なんて答えたかというと「それはグッジョブだ。」と。
--それは、どういう意味なんですか?
よくできたねと自分に言ってしまうと、言った時点でステージが終わってしまう。そこで満足してしまう。だからその言葉は危険だと。
教官はそう言ったんです。たまには自分を認めてあげることも大事ですが、極めるって終わりがないことだと思うので、この言葉はすごく響きました。
--なるほど。その考え方が今の美容師というお仕事にもつながっているんですね。
そうですね。手に職じゃないですけど、演奏も同じだと思うので。
誰かを喜ばせたり人を満足させるためには、音楽も届けて終わりじゃないですし。
僕らもデザインを届けて誰かを満足させるためには、やっぱり究極なところまでいかないとダメで。
そこまでいくには並大抵の努力なんかではダメだということをすごく学びました。プロ根性というか。
4. 今後、映画という存在がもっと仕事につながっていきそうだな、と思う部分はありますか?
職業柄、ファッションやヘアスタイルですね。洋服の色味のバランスはとても気になります。
スタイリストはファッションの色合いも考えながらスタイリングしているので。
あとは洋画だと、時代背景で着ている洋服も異なるので、それも勉強になりますね。
--特にヘアスタイルが印象的だった映画はありますか?
そうですね、かなりありますよ。例えば、〈エターナル・サンシャイン〉はオレンジヘアがすごくかわいかったですし、〈アデル・ブルーは熱い色〉もブルーのヘアスタイルが印象的でした。
〈ジンジャーの朝〉も『エル・ファニング』のオレンジベージュぽい色がかわいかったです。
--それ以外に、思い出に残っている映画は?
〈スタンド・バイ・ミー〉です。自分は喫煙者なんですけど、タバコを吸うきっかけになったのがこの作品なんです。
秘密小屋でタバコを吸うシーンがあって、当時は同じ銘柄のタバコを吸っていました。
これは、たしか2、3回は観たと思います。結構同じ作品を何回も観ちゃうんですよね。
観るたびに見方も変わってくるので、感じ方が違くて面白いですよ。
2. moka / 24 / イラストレーター
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東京を拠点にイラストレーターとして活躍する彼女。日本大学芸術学部のデザイン学科を卒業して、もともとは趣味で描いていたイラストを本格的に仕事としている。
『NEUT Magazine』のイモリデザインをはじめ、個展やグループ展に参加したり、イベントでは似顔絵を描いたりとさまざまな場所で活躍中。
手書きで人物をモチーフとした作品が多く、絶妙な表情と手書きのラフな雰囲気がとてもかわいい彼女の作品。そんな彼女に映画の話を聞いてみよう。
1. 映画は普段どれくらい観ますか? また、映画を観るようになったキッカケはなんでしょう?
1日に何本も観るのではなく、気になっている作品を作業しながら観たり、寝る前に観たり。観たい映画があればという感じです。
映画を観るようになったきっかけは、幼稚園の頃に親に連れられてレイトショーを観に行ったことがあって。
初めて観た作品で覚えているのは〈アメリ〉とか〈マトリックス〉。子供向けを観せられたわけじゃなく、親が観たい映画を一緒に観ていたんです。
でも、今でもその2つの作品は好きで、よく観直しています。
--自宅で観ることが多いんでしょうか?
自宅が多いです。昨年ごろに『ネットフリックス』に加入したんですけど、その前は近くのレンタルショップで借りて、適当にジャケで気になったものを観るという見方をしていて、その見方もすごく好きでした。
内容より、パッと気になったものを観ることが多いです。『ネットフリックス』だとジャケットがないので、『フィルマークス』でピックしたものを探して、気になったものを観ていますね。
2. 普段映画を観るとき、何を基準に作品を選んでいますか?
本当に雑食というか、その日の気分で観ることが多いですね。
どちらかというと海外映画をよく観ていて、グザヴィエ・ドラン監督の作品は、すごく好きです。
最近は邦画も観るようになったんですが、観て面白かったのは〈ジョゼと虎と魚たち〉です。
3. 今まで観たなかで、自分の考え方に影響を与えた作品は?
“考え方” という観点だと、同性愛を描いた作品だったり、小津安二郎監督を代表に、日本人監督の作品に影響を受けていますね。
やっぱりその時代ならではの、女の人が男の人を影から見守っているだとか、『支えてる』っていうのもそれはそれでいい時代だったのかな? と思ったりします。
特にこの作品というと難しくて、本当に雑食なのでいくつもの作品を観ることで多様な人の考え方を知れるというか。
レズやゲイ、黒人、昔の日本映画だとその時代の日本人。本当にいろんな考え方を吸収できて、経験を擬似体験しているような気がします。
80年代の弾けている時代も経験してみたかったなと思ったりします。
その時代の考え方や世界観を学んでいるのかな? うまく言葉にまとめられないんですけど。
あとは、海外の作品を観てワンシーンを絵に描いたりするので、それが仕事にはつながっているかもしれないです。
--やっぱりシーンをそのまま描くって感じなのかな? それとも、自分でその世界観を考えて描いてる?
そのまま描くことが私の絵では多くて、ジャケから引っ張ってきたりもしますし、一番描きたくなる作品は〈ゴースト・ワールド〉です。
映像を観ただけでワクワクするというか、何回も観たくなりますね。
ちょっと昔の時代の作品、〈バッファロー ’66〉もすごく好きで、特に照明写真を撮るシーンが好きです。
https://www.instagram.com/p/B5VIcnzBHCW/
--描きたくなる描写って、どんなところにあると思いますか?
顔がかわいいと描きたくなるかも。あとは構図。みんながギュって集まってるシーンとか、2人で歩いているシーン。
あとは、どアップになってるところも。やっぱりファッションや色味は見ますね。
--他に映画を観ていて、気になるポイントは?
小道具とかご飯とか、細かいポイントをすごく見ています。
例えば〈トレインスポッティング〉の1シーンで、主人公ともう1人が芝生に寝っ転がって、望遠鏡で遠くを見るシーンがあるんです。
そのときに脇に置いてあった、缶か缶ジュース、マイボトルみたいなのものに女の人のがプリントされてて、ダイアナ妃のような顔立ちで。
そういうところをかなり見ちゃうんですよね。
あとは寅さんの〈男はつらいよ〉も好きで見てるんですけど、そのなかでも脇役の表情を気にして見ていたり。
ハワイ旅行に行こうとするシーンがあって、そのなかでおいちゃんという人がJALのバッグを持っているんですけど、その当時のデザインがすごいかわいくて気になったりします。
もう1個は昭和の話で、〈愛のコリーダ〉っていう作品。実際にあった事件を元にした映画だったはずで、それに出てくる主人公の女性には、サソリのタトゥーが耳たぶに彫ってあって。
それを見つけて面白い! と思ったり。そういった細かいポイントが気になってしまいます。
昔の作品のごちゃごちゃしてる感じの方が、細かいポイントを見つけるのも楽しいですし。
デザインていうとなんでもそうなんですけど、あんまり綺麗すぎるよりも、ちょっと雑くらいの方が好きなんですよね。
直線ていうよりも、手書きで、ちょっとぶれてる線の方が好きで。
--なるほど。それ以外に、思い出に残っている映画はありますか?
アクション映画が好きで。特に、女性のヒロインのものがすごい好きなんです。
--女性のアクションに惹かれるポイントは?
強い女性にすごく憧れがあって。中高生のときに、空手とかそういう体術を習っておけばよかったなと思ってます。
だから、スカッとするような強い女性が出てくる話が好きです。
あとは小さい頃にレイトショー以外で、父とよくアクション映画を見ていたことが影響していますかね。
4. この夏、もしくは今、観たいと思っている映画はありますか?
〈千と千尋の神隠し〉と〈もののけ姫〉を観たいです。
〈千と千尋の神隠し〉は小学校のときに一度映画館で観ているんですけど、今観るとまた捉え方も違うと思うので、すごく楽しみです。
テレビや携帯で観るのと映画館で観るのも、まったく異なる体験だと思うので。
--ジブリと他のアニメで違う部分はなんだと思いますか?
アニメというジャンルで収まらないというか、1つの作品を観に行くっていう気持ちで観てるので。
ジブリというブランドというか。音楽もだし、主人公もだし。
〈風の谷のナウシカ〉もさまざまな植物が描かれていて、そういうところに注目して観れるので、自分の映画の見方に合っているかなと思います。
細かい描写が面白くて、かつしっかりとした世界観があるので。やっぱり、ちょっと色あせてるくらいの映像が好きなんです。
例えば、〈アキラ〉の色のタッチや絵も好き、〈ドラえもん〉も今のものじゃなくて、私が小さい頃の〈ドラえもん〉映画の色味が好きです。
--色あせた感じに惹かれる理由ってなんですか?
ちょっと人工的な色じゃないけど、デジタルとアナログはその違いなのかなあって思うし。
赤でもパソコンのイラレで塗った赤と、絵具で塗った赤って違うじゃないですか。
おそらく画面越しで観てもそれは違うと思うので、やっぱりそういう違いなのかな。完璧すぎないからこそ、心にくるじゃないですけどね。
3. airi / 22 / 古着屋スタッフ
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祐天寺の古着屋『kunut』(クヌート)で働く彼女。
学生時代から働き始めて2年目。現在は店頭に立つことをメインに、オリジナル商品の企画にも参加している。
まだ2年目の彼女だけど、インスタグラムのおしゃれなヘアスタイルやファッションからは、彼女のセンスの良さが垣間見える。
また、彼氏がヒップホップに詳しいということで、その影響をかなり受けているそう。そんな彼女に、映画の話を聞いてみよう。
1. 映画は普段どれくらい観ますか? また、映画を観るようになったキッカケはなんでしょう?
実は、今まではあまり映画を観てこなかったんです。ただ今回自粛期間を迎えて、元から映画が好きな彼氏に影響されて観るようになりました。
--そうなんですね! 自粛期間で一番初めに観た作品はなんでした?
自粛期間で一番始めに観たのは〈ワイルドスピード〉です。父が映画が好きなこともあって、テレビの放送で一度昔観たことがあって。
1つ目の作品から毎日観続けて、全話観直しました(笑)。
2. 普段は映画を観るとき、何を基準に作品を選んでますか?
今までそんなにたくさん映画を観てこなかったのもあって、正直こだわりはあまりないです。
だけど、ジャケットのおしゃれさみたいなところは大事にしているかもしれません。
特に、作品に出てくる人物のヘアスタイルがかわいいと手にとっちゃう気がします。仕事柄かな?
--古着屋の仕事では、普段からヘアスタイルにもこだわってますか?
はい! その日のヘアスタイルに合わせてファッションを考えてます。
3. 今まで観たなかで、自分の考え方に影響を与えた作品はありますか?
自分に影響を与えたとなると、ちょっとジャンルは変わるけど〈ノトーリアス・B.I.G.〉ですかね。
彼氏がヒップホップ好きなんですが、ブラックミュージックの歴史に関する映画を観るなかでこの作品を一緒に観ました。
ノトーリアス・B.I.G.というアメリカのラッパーの生涯を描いた話なんですけど。
この作品を観たことで、ブラックと呼ばれる人たちが作ったカルチャーが、今この時代にすごく影響を与えているんだと知ることができました。
そして、この作品を観た少し後に黒人差別の問題がアメリカで社会問題になって。
この問題について、真剣に考えるきっかけになりました。
--タイムリーだったんですね。その映画を観て、仕事に対しての考え方には影響がありましたか?
映画に出てくるような当時のヒップホップの定番の格好は、白Tに〈Dickies〉のパンツ、〈KANGOL〉のハンチングや〈NEW ERA>のストレートキャップ。
だから、街でそういう格好をしている人を見かけると、カルチャーを重んじて着ているんだなとカッコよく思うようになりました。
あとはヘアスタイルも。ブレイズ、ツイストをしている人もカッコいいと思います。
この作品を観てからは、自分が好きなジャンルだけじゃなくて、もっとたくさんのカルチャーに興味を持つようになりました。
--他の作品でもありますか?
あとは〈天使にラブ・ソングを2〉も好きです。この作品もブラックミュージックに関わる話なのですが。
高校で生徒たちが自然と歌っている歌がヒップホップで、ラップバトルをするシーンもあって。
音楽の文化がこういうところから生まれているんだと感じたし、高校生の制服ファッションもかわいくて、仕事の参考になりました!
小学生のときに観たことがあって、そのときはストーリーがただ面白いという思い出だったんですけど、今はブラックカルチャーに意識が向いているから、背景もすごく意識するようになりました。
--他にも、映画を観るなかで気にかけているポイントはありますか?
やっぱり、何年代を舞台にしたものかというところですかね。髪型やファッションって、時代ごとに違うと思うので。
最近だと、1860年代のアメリカを舞台にした〈ストーリー・オブ・マイライフ 〜わたしの若草物語〜〉を観たいと思ってます!
これもまず、ジャケットがすごくかわいいなと思って。あとはファッションや髪型も。アカデミー賞の衣装デザイン賞も受賞しているくらいで。
4. 今後、映画という存在がもっと仕事につながっていきそうだな、と思う部分はありますか?
仕事というと少し重い話になってしまうけど、人間的にもっと豊かになるために、ジャンルを問わずたくさんの作品を観ていきたいです。
実際に普段髪を切ってくれる美容師さんも、映画や音楽に精通している人が多くて。そういう人って、みんなすごく人として魅力的なんですよね。
人間的な豊かさが、仕事の審美眼にも活かされるんじゃないかなって思います!
映画をもっと楽しもう!
今回話を聞いた3人は、仕事柄もそうだし、彼らの環境もそうだし、やっぱりそれぞれ、彼ら “ならでは” の視点で映画を観ていた。
だからこそ、そんなポイントに目がいくの!? って思ったこともたくさんあったはず。ぜひ、彼らの視点で気になった映画を観てほしい。
それと、じゃあ自分はどんな視点で映画を観ているんだろう、何が好きなんだろう、って少し考えてみたら、きっと、また違う視点で映画を楽しめるようになる気がする。