初めて訪れる友達の家。ふとなんとなく本棚に目をやると、そこには自分の知らない本がたくさん並べられていた。
奇抜な写真が表紙の洋書、小難しい単語が並んだ新書、そしていま流行の文庫本。
それを見たときに僕は、意外なような、新鮮なような、なんとも言えない気持ちになったんだ。
「本棚を見ると、その人のことを理解できる」なんて言葉を僕らは耳にするけど、あながち間違いじゃないみたい。
事実、その本棚を見たあとは、友だちのことがより深く理解できたような気がする。
ならば、僕らが憧れている人たちがどんな本を読んでいて、どんな感想をいだいているかを知ることで、その人の生み出す作品が、その人が発する言葉が、より深く理解できるかもしれない。
そう思い立った僕は、普段から憧れていた2人に、本と創作の繋がりを聞いてみた。
作品から受けるメッセージをイラストに。イラストレーター MTMY
最初にお話を聞くのは、インスタグラムで映画イラストを発表しているMTMYさん。
オリジナルの視点から映画を切り取り、それをイラストで表現する彼女。
いったい、どんな本を読んでいるのだろう? また、どんな想いでイラストを描いているんだろう?
--よろしくお願いします。イラストを書き始めたのは、どういったきっかけがあったのですか?
小さい頃から絵は書いていたのですが、それこそきっかけは特になく、気がついたら好きでたくさん描くようになっていました。
小さい頃はアニメのキャラクターの模写から始めて、中学生の頃はデフォルメの技術にハマっていて。
わざと足を大きく書いたりとか、手を誇張したりとか、そういった描き方をしていましたね。
今のスタイルになったのはちょうど3、4年前のことで、当時SNSでイラストを載せるのが流行していたタイミングで私も載せ始めました。
当時はさまざまな人気イラストを観ることが多く、それが自分のイラストにも自然と影響を与え、結果としてオリジナル性を表現できずにいて。
一時期は公開するのをやめていたんです。「そもそも何のために公開しているんだろう」って。
そこで本格的にオリジナルを見つけようと試行錯誤をしているうちに、自分の手が人よりも大きいことに気がついたんです。
もともとコンプレックスだったのが逆に特徴になるんじゃないかと。
--自分のコンプレックスが逆に魅力に。なるほど。
当時よく映画を観ていたのですが、登場人物の顔の表情、動きと同じくらい、手の動き方って面白いんじゃないかと思っていて。
それならば自分の絵に取り入れることで、他の人と違う “MTMY” の絵だと思ってもらえるんじゃないかと。
あとは絵を描くスタイルにもこだわっていて、私は鉛筆とペンだけで描くようにしています。
色をつける際はアプリなどを使っていますが、基本的にはアナログな質感を大切にしていますね。
--MTMYさんは普段、どんな本を読んでいますか? 今までで特に印象に残った本はありますか?
『向日葵の咲かない夏』(道尾秀介・新潮文庫)ですね。
普通のミステリー小説とは違い「叙述トリック」という手法で描かれた作品なのですが、初めて自分の頭のなかの想像が破綻するという体験をして。
それまで本は好きでいろいろと読んではいたのですが、ある意味、ストーリーが予測できるというか、こういう流れだよねっていう本が多くて。
でもこの本を読んで初めてそういった予測を裏切られる体験をして。そういう意味で衝撃的な作品でした。
--MTMYさんのイラストにもそういった本の影響を受けたものはありますか?
本や映画の表紙をただ絵にするのは正直、私は違うと思っていて。
そうではなく、映画イラストを描くうえで大切にしていることは、観た作品から自分が何を感じ取ったのか、何に強く影響を受けたのかをちゃんと表現することですね。
本を読み終えてから改めて表紙を見返してみると最初のときと印象って変わりますよね。映画でも同じことが起きると思っていて、私のイラストを観る人だけでなく、その映画を観たことのある人が「たしかにこういうイメージや雰囲気だったな」と思ってもらえるように意識はしています。
--なるほど。そのなかでMTMYさんが特にお気に入りだというイラストはなんでしょう?
<ピクニック at ハンギング・ロック>という作品のイラストがお気に入りです。
正直、これを書いた当初はそこまで思い入れが強かったわけではないですが、このイラストを見てくださった人がご自分のインスタストーリーでこの絵を紹介してくださって。
そのときに自分が書いた絵が他の誰かの心を動かして、なにか良い影響を与えたんだということがとても嬉しかったです。
--そういった反応は励みになりますよね。今後、MTMYさんが読みたいと思っている本のジャンルはなんでしょうか?
ドキュメンタリー系の作品を今後は読んでいきたいですね。
今まではフィクションの作品を多く読んできたのですが、今後の自分のキャリアを考えたときに、もっと多くの人と話をして、生き方や考え方など、自分のこれからのヒントになるような作品を読んでいきたいです。
MTMYさんの描く映画のイラストは、デザイン性もさることながら、その奥に込められたメッセージがしっかりと伝わってくる。
そのバックボーンには、想像を超えるトリックを教えてくれた本があったんだ。
絵を通して人を笑顔に。似顔絵作家 ハマダユウヤ
続いてお話を聞くのは、チトセ11月号に協力してくれた似顔絵作家のハマダユウヤさん。
ハマダさんは普段、会社員として働きながら、休日は似顔絵作家として数多くの人を描いてきた。
そんなハマダさんは普段、どんな本を読んでいて、どんなことを考えているんだろう?
--よろしくお願いします。さっそくなのですが、普段はどんな本を読んでいますか?
昔はエッセイをよく読んでいたのですが、今は仕事柄ビジネス書をよく読んでます。
そのなかでも好きな本は、トム・ピーターズの『トム・ピーターズのサラリーマン大逆襲作戦1 ブランド人になれ』(トム・ピーターズ、CCCメディアハウス)ですね。
--この本はどういった内容なんでしょう?
この本は2000年に出版された当時から、会社の名前で仕事をするんじゃなく、自分は何者で、どんな仕事をしていて、何をしたいのかをはっきりと伝えることが必要なんだということを言っていて。
自分の背中を押してくれたというか、自分を奮い立たせてくれるというか、そういう本ですね。
--ハマダさんがイラストを描くようになったきっかけは何ですか?
もともと絵は好きで小さい頃からよく描いていました。
覚えているのは、おばあちゃんの家で家族でご飯を食べているときにその風景を絵に描いたら、とっても喜んでくれたこと。
それが絵を描くようになった原体験ですね。
活動としてイラストを描くようになったのはもう少し後で、きっかけは大学3年生の頃に行ったカナダ留学です。
そこでさまざまな人種、価値観、考え方に出会い、話をしていくうちに「もっと自分の好きなことをやってもいいんじゃないか」と思うようになりました。
もともと大学進学時に美術系に進学するのかでとても迷っていたこともあり、留学をきっかけに自分のやりたいことを突き詰めたいと思うようになりましたね。
それが、イラストを本格的にするようになったきっかけです。
--ハマダさんがイラストを描くうえで、大切にしていることはなんですか?
似顔絵を描くうえで大切にしているコンセプトは「絵を通して人を笑顔にしたい」ということをいつも考えています。
似顔絵は絵を描く際に特徴を捉えて描くことがあるのですが、その特徴って人にとってはコンプレックスでもあって、その点は踏まえつつも、その人が大切にしている価値観など目に見えないものを絵で表現するように心がけています。
その人のバックボーンが絵を通して見えてくるような、そういった書き方を心がけていますね。
--ハマダさんがこれまで描いてきた絵のなかで、特に思い入れが強いイラストはなんですか?
このイラストですね。仲のいいカップルの写真をイラストにしました。
このイラストを描いたことによって、新しい繋がりができたんですよね。
もともとこの2人とは自分がイラストを出店したイベントで出会っていて、2人のインスタグラムアカウントを眺めていたときにこの絵のもとになっている写真を見つけて。
その写真を見たときになんかものすごく絵を描きたくなったんです。写っている2人も魅力的だし、写真全体の色味や構図も魅力的だし、なにより、その写真を撮ったカメラマンも同学年だしで、なかば衝動的に描いた記憶があります。
この1枚の絵からプライベートや仕事でも新しい人たちと繋がることができたこともあり、結果として自分がしたかった “好きな人たちと仕事をする” ということが実現できています。
そういった意味で、とても思い入れのあるイラストですね。
--1枚の絵がいろんな人を笑顔にしてくれたんですね。すばらしいです。では、最後にハマダさんが今後、読んでいきたい本のジャンルを教えてください。
引き続き、ビジネス書、特にマーケティング関係の本は読み続けていきたいです。
今はイラスト1本ではなく会社員をしていますが、自分の今後のビジョンを考えたときに、好きなことでで生きていくということを博打にしたくないと思っていて。
本当に好きなら、真剣にやるなら、自分の頭で方法を設計し、やり抜く必要があると思っています。
そのためにも今はマーケティング関連の本を読んで、まずは知識を積んでいきたいと思います。
温厚で穏やかな様子とはうってかわって、自身のキャリアについて語るハマダさんの様子はまさに真剣そのものだった。
好きなことで生きていくことを博打にしたくない。好きなことで生きていくために勉強を続けるんだ。
ハマダさんの言葉は僕たちに改めて学ぶことの大切さを教えてくれた。
好きな本を通して発見する、あの人の “想い”
今回はイラストで活躍する憧れの2人に話を聞いた。それぞれが持つ自分のこだわりは、作品を見るだけじゃ窺い知ることのできない、何か大切なものを教えてくれるようだ。
本を通して発見する、それぞれの想い。彼らが教えてくれた本を僕も読み、そしてもう一度、彼らの作品を眺めてみたいと思う。
僕らの友達について
■MTMY
Instagram:@fudgeillustration |
■ハマダ ユウヤ
Instagram:@snlw_illust |
記事の創り手について
ヒロウチ マサフミ – 取材・執筆
96年東京生まれ、茨城育ちの社会人2年目。執筆をして写真も撮って、編集をしながらクリエイティブも作って……という感じの「何でも屋」です。 Instagram:@masafumihirouchi |
シミズ シュン – 編集
チトセの代表と編集長、カメラマンを務めています。”僕らが楽しく生きるために” をテーマに、親しい友人から話を聞いているような、そんな等身大のメディアを目指して。「楽しいから楽しむのではない。楽しむから、楽しいのだ。」という言葉を大切にして、日々を生きています。 Instagram:@shun_booooy |
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